はじめに
弊社では、大分県先端技術挑戦プロジェクト事業に採択された、林業向けソリューション開発において、県内の林業関連団体や高等教育機関と共に、作業現場の安全性向上を目的とした機器開発を行っています。
開発背景
林業の作業現場は、急斜面で足場や見通しが悪く、厳しい作業環境にあります。事故が発生し易く、最悪のケースでは作業者の生 命が脅かされることもあり、全産業平均と比較して極端に高い労働災害率を抱える産業となっています。
図:他産業との労働災害発生率の比較(年千人率)
この状況が長年続く要因として、安全対策講習等では十分な対応が難しいことや、周囲の作業員が事故の発生自体に気付かないこ と、伐採現場で携帯電話の電波が届かないことによる事故連絡の 遅れなど、多くの問題がありました。
開発の目的
業界・現場職人の事故予防に対する「意識」は高い・・・
林業現場の安全確保を行う、手頃なIoTソリューションが少ない・・・
何とか事故が起きる前に、危険に「気づく・知らせる」事が出来ないか?
もし事故が発生した場合に、周囲の作業員と外部への連絡が出来ないか?
技術的アプローチ
作業現場では、既存の携帯電話網が圏外となる事を前提に、開発する機器間でLPWA通信のLoRaを利用し情報交換を行う方式を採用しました。
作業員同士の意図せぬ近接作業による事故を防ぐ目的で、相互に近接通知を行う試作機器を開発しました。
作業現場内で携帯網に頼らない、LPWA通信網を構築
近接検知
LPWA通信(LoRa) を利用し、作業員が携帯する機器内のGPSによる 位置情報を、他作業員が携帯する機器へ送信。同様に他作業員からの電波を受信する事で、電波強度やGPSによる相手作業員との位置関係を元に、大凡の距離や方向を推定します。
設定された範囲に他作業員が入った場合、機器内のブザー・振動・光にて、作業員へ周囲への警戒を促します。
SOS伝達
機器本体に内蔵するピンを抜くことにより、SOS予備動作モードへ移行し 、ブザー・振動・光によって予備動作モードであることを作業者に知ら せます。予備動作モードの解除が行われない場合はSOSモードに移行し、周辺の他作業員が携帯する端末へ向けてSOS電波送信を開始します。
SOS電波を受信した機器は、ブザー・振動・光により他作業員にSOSを通知し、更に周辺の作業員が携帯する端末へのSOS電波送信を開始すること で、より遠くの仲間ヘリレー方式でSOS情報を伝達します。
試作開発による試行錯誤から、製品化へ
令和3年度 先端技術挑戦プロジェクトによる試作
令和4年度 自社にて開発継続
試作時に得たハードウェア・ソフトウェアの知見を機器へフィードバック
令和5年3月改良を進め、試験販売へ…
見込める成果
このプロジェクトにより、従来の作業員の感と経験に頼った安全対策以外に、IoT機器を利用した機安全対策への選択肢を増やすことができました。
重大な事故を未然に防ぐことで、作業環境の安全性と効率性の向上への寄与となります。
また、林業従事者を志す新規就労者へ向け、従来の作業員の安全に対する意識以外に、機器による安全対策を組み合わせ、長年続く高い労働災害発生率が減少傾向となる事により、就労への後押しに繋げます。
今後の展望
試験販売を行った機器に対し、現場作業員から多くのフィードバックを頂いています。
特に機器の小型化・アンテナレス・プラグレス等の要望が多かったため、一部データについてはAIに判断を行わせるなど、さらに利用しやすい機器への改良に向け、引き続き開発を行っています。
最後に
この一連の取り組みは、様々な課題も多く困難な挑戦となりますが、技術の力が社会的課題の解決に貢献できるかを示す事に繋がります。
弊社では、引き続き先端技術を活用して挑戦を続け、その過程を通し社員の技術力の向上を図り、得た成果を社会に還元することで、新たな価値を創造して行きます。